「それから数年して、竣介の短い生涯への決別を思わせる絶筆「建物」を見ることになった。あれは絶筆になったのではなく、竣介はたしかに絶筆として描いた。これほどに、画家の生命の終結を思わせる絵は他にない。
四十度の熱をおして、アトリエまで這っていって描き上げた白い「建物」。竣介はこの時、画布の背後に迫ってくる「死」をたしかに見ていた。
これから彼が入って行く、白い建物と、その白い入り口を、竣介は最後の力を燃やして描き上げた。
私は、この絵の中に、竣介の決別の言葉を聞いている。」
舟越保武
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